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東京地方裁判所 昭和39年(特わ)483号 判決 1971年12月21日

被告人

1

本店所在地 東京都中央区銀座五丁目九番一二号

ダイヤモンドビル

株式会社太平洋テレビ

(右代表者代表取締役 清水昭)

2

本籍 北海道余市郡余市町黒川町四丁目二番地

住居

東京都中央区銀座五丁目九番一二号

ダイヤモンドビル

株式会社太平洋テレビ内

職業

会社役員

清水昭

大正一三年四月五日生

被告事件

法人税法違反

出席検察官

宮本喜光

主文

被告会社株式会社太平洋テレビおよび被告人清水昭

はいずれも無罪。

理由

(本件公訴事実および検察官の主張)

第一、本件公訴事実

被告会社は、東京都中央区銀座五丁目三番地ダイヤモンドビルに本店を置き(昭和三八年八月二九日以前は同区八重洲五丁目五番地)テレビジョンの番組の製作と提供等を営業目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人清水昭は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人清水昭は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て売上の脱漏架空製作費の計上等の不正な方法により、昭和三五年九月一日より昭和三六年八月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が九、〇〇七万九、〇八二円あったのにかかわらず、昭和三六年一〇月三一日東京都中央区新富町三丁目三番地所在京橋税務署において、同税務署長に対し。所得金額はなく、納付すべき法人税もない旨虚偽の確定申告書を提出し、もって被告会社の右事業年度の正規の法人税額三、四一三万〇、〇二〇円をほ脱したものである。

第二、検察官の主張

一、本件所得の内容

右公訴事実記載の被告会社の実際所得金額は、主としてフィルム売上金収入によって構成されているものであるが、右収入は、被告会社が国内テレビ放送局(以下、単に放送局という。)等に対し、外国テレビ映画フィルム(以下、単にフィルムという。)を斡旋セールスして得たものであって、その実際金額は検察官提出の冒頭陳述要旨別紙(一)の修正損益計算書記載のとおり一億九、八一三万二、六六一円であった。

二、フィルム売上金の帰属

被告人および弁護人は、被告会社は独立のフィルム輸入業者ではなく単に外国のテレビ映画フィルム配給会社(以下、単に外国会社という。)の代理店にすぎないものであるから、被告会社が放送局等にフィルムを斡旋セールスして得た金銭はそれがドルであれ円であれすべて外国会社に帰属するものであって被告会社の収入となるものではないと主張するけれども、右金銭のうち被告会社が円で取得し、かつその旨を外国会社に報告していないいわゆる未報告円についてはこれを被告会社の売上金収入と認めるのが相当である。すなわち、

(一) 本件当時のフィルム輸入状況および放送局側の認識

フィルムの輸入は、これを法律的に見ると、フィルムに化体された著作権の使用権(放映権)を外貨を支払って取得することであって、いわゆる貿易外取引(役務に関する契約)にあたるが、本件当時国内において右取引の当事者(輸入者)となりうるものは、法律上放送局のみに限られていた。従って被告会社は法律的にはフィルムの輸入者となり得なかったけれども、これを実際の営業面から見ると、まず被告会社が放送局にフィルムの売込を行い、その代理人としてフィルムを通関入手し、自ら日本語版を製作してこの両者を一組(パッケージ)として放送局に引渡し、放映終了後はこのパッケージの返却を受けて更にこれをローカル局等にセールスする等していたので、放送局においては、キー局、ローカル局を問わず被告会社を外国会社の代理店というよりはむしろ、独立のフィルム輸入業者と理解し、また支払う代金のうち円については、その取引がファストラン(最初の放映)に関するものたるとリピート(再放映)ないしローカルセールス(地方局に対する売上)に関するものたるとを問わず、すべて被告会社に支払うものと考えていたのであって、これを外国会社に支払うという考えは全くなかったのである。

(二) 日本語版テープの使用料

日本語版テープは、被告会社がその責任と負担において自ら製作したもので、その使用収益権はすべて被告会社に帰属していた。従ってファストランの場合であれリピートないしローカルセールスの場合であれ、日本語版使用料として放送局等から支払われた円はすべて被告会社の収入となるものである。

(三) 外国会社との関係

被告会社は外国会社の指示に基き、個々のフィルムごとに放送局と交渉し、放送局との間に契約が成立すると手紙、電信等でその旨を外国会社に報告していた。そして、右報告の中で、フィルムの料金については原則として被告会社と放送局との間にとりかわされた契約書記載のドル金額と一致するドル金額を報告していたが、時に被告会社独自の意思で右契約書記載のドル金額より多いドル金額を報告し、或は右契約書記載のドル金額に何ドル相当円を加算して支払う旨の報告をしたりしていた。そして更に、右報告したドルおよび円については外国会社別にドル勘定書或は円勘定書を作成し、これに右報告による売上金額、既送金額、残額等を記載してこれを外国会社に送付し、ドルおよび円ごとに被告会社の外国会社に対する債務関係を明確にしていた。しかしながら、被告会社は放送局等から受領した円収入のすべてを外国会社に報告していたわけではなく、右円収入のうちファストランの場合における円収入の一部についてのみこれを外国会社に報告し、ファストランの場合におけるその余の円収入およびリピートないしローカルセールスの場合における円収入については一切これを外国会社に報告せず、しかも右未報告の円収入について何ら明確な経理処理をなさなかったばかりかその保管についても架空名義の預金にしたり土地を買ったりなどして外国会社のために保管するという処置は何らとっていなかったのである。

(四) 被告会社の経理処理

被告会社は開業以来、一部脱漏分を除いて前記未報告円を全額「フィルム売上」として公表決算に計上していた。

以上の各事実によると、前記未報告円については、被告会社においてこれを自己のものと認識しかつ自己のものとして取扱っていたのはもとより、相手方である放送局においてもこれを被告会社のものと認識していたのであるからこれが被告会社の収入となり従って法人税の課税の対象となるべきものであることはもとより当然というべきである。

(当裁判所の判断)

第一、被告会社の概要

被告会社の登記簿謄本、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、被告会社は昭和三二年九月二〇日テレビジョンの番組の製作と提供等を営業目的として設立された株式会社であるが、右設立の頃からNBC(ナショナル・ブロードキャスチング・カンパニー)インターナショナル、NTA(ナショナル・テレフィルム・アソシェート)、フリーマントル・インターナショナル等の外国会社と、いわゆる代理店契約を結び、本件事業年度当時においては右外国会社の配給するフィルムを放送局等に斡旋セールスする事業に主力を注いでいたものである。

第二、被告会社がいわゆる未報告円を利得したものかどうかについて

一、被告会社のフィルム売込方法、代金決済方法および外国会社に対する売上報告の状況

被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書、証人有坂一雄の当公判廷における供述、第五、六回各公判調書中証人百瀬喜七の供述部分、第七回公判調書中証人井上新吾、同中野忠夫、同大嶋建一の各供述部分、第八回公判調書中証人中野忠夫、同日比生正義の各供述部分、第九回公判調書中証人富家禎三、同宇根元繁夫の各供述部分、第一四回公判調書中証人西村五州、同伊藤元の各供述部分、押収してある仕入先送金元帳一冊(昭和四三年押第三三号の14、以下いずれも同押収番号なので符号のみを記載する。)、外債表一綴(16)、契約関係書類五綴(17ないし21)、契約書一一綴および一〇袋<22>、契約書綴二綴(50、57)、経理日誌一冊(54)、支払報告関係綴一綴(55)、NTA受信綴三綴および二袋(24、31、47、72、76)、NTA発信綴二綴および二袋(25、26、71、77)、NTA受信発信綴一袋および二綴(64、84)、NTAアグリメント一袋(78)、NBC受信綴四綴および三袋(27、28、30、49、63、70、73)、NBC発信綴三綴および一袋(29、32、45、74)、NBC受信発信綴一袋(69)、NBCレポート綴一綴(61)、NBCアグリメント一綴および一袋(62、65)、NBC関係書類綴一袋(75)、フリーマントル受信綴一綴および一袋(48、66)、フリーマントル発信綴二綴および一袋(34、46、67)、フリーマントル受信発信綴一袋(68)、NFB受信発信綴一綴(79)、日本文契約書二箱(81、82)によると、被告会社のフィルム売込方法、代金決済方法および外国会社に対する売上報告の状況は次のとおりである。

(一) ファストランについて

1 売込の概要

被告会社は外国会社から送付された見本のフィルムに基いて、まずNHK等のキー局に対しフィルムの売込を行い、契約が成立するとその旨を外国会社に報告して実物フィルムの送付を受け、放送局の委任を受けてこれを通関入手したうえ、自社においてこれに対する日本語版を製作し、右フィルムと日本語版とを一組(パッケージ)として放送局に引渡し、放映終了後は右パッケージの返還を受けてこれを被告会社において保管していた。

2 代金の支払方法

被告会社は放送局との間に右契約が成立すると、まず放送局との間で日本文契約書を作成し、この中に放映料金について、「一パッケージにつき何円を被告会社に支払う。うち何ドルを外国会社へ送金する。」(NHKを除いた民放キー局の場合)とか「版権料として何ドルを外国会社に支払う。外に何円を被告会社に支払う。」(NHKの場合)等と通常記載していた。そして放送局は右日本文契約書に記載されたドルについてはこれを直接或は被告会社を介して外国会社に送付し、円についてはこれを被告会社に支払っていた。

3 外国会社に対する売上報告

被告会社は放送局との間に契約が成立すると、手紙または電信等でその旨を外国会社に報告していた。しかして右報告の中で、売上金額については原則として前記日本文契約書記載のドル金額をそのまま報告していたが、フィルムによっては右契約書記載のドル金額より多額のドル金額を報告し、或は右契約書記載のドル金額に何ドル相当円を加算して支払う旨の報告をしたりなどしていた。そして右報告したドルおよび円については外国会社別にドル勘定書或は円勘定書を作成し、これに右報告にかかる売上金額・既送金額・残高等を記載してこれを外国会社に送付し、ドルおよび円ごとに被告会社の外国会社に対する債務関係を明確にしていた。しかしながら、被告会社が放送局から受領した円のうちドル相当円として外国会社に報告したのは一部のフィルムについて受領した円に関してのみであって、その余のフィルムについて受領した円についてはこれを全く報告しなかった。

(二) リピートないしローカルセールス(広告代理業者に対する売上も含む。)について

キー局に対して再放映のために売込まれたリピートフィルムについてはそのごく一部を除いて円のみで契約され、またキー局での放映終了後ローカル局ないし広告代理業者に対して売込まれたフィルムについてはその全部が円のみで契約されていた。そして、右リピートおよびローカルセールスの場合に受領した円については被告会社は一切これを外国会社に報告しなかった。

(三) 沖繩の放送局に対する売上について

沖繩所在の放送局(沖繩テレビおよび琉球放送)に対して売込まれたフィルムについては、フィルム使用料・日本語版使用料・扱手数料に区別してそれぞれ一本何ドルとして契約されていたが、被告会社は外国会社に対し、右ドルのうちフィルム使用料のみを報告して他の日本語版使用料・扱手数料についてはこれを一切報告せず、また右売上を全然報告しない場合もあった。

二、フィルム売上に関する経理処理および未報告円の管理状況

被告人の検察官に対する昭和三七年四月二一日付、同月二二日付、同月二七日付、同年五月一六日付各供述調書、第五、六回各公判調書中証人百瀬喜七の供述部分、第一三回公判調書中証人村沢英弥の供述部分、百瀬喜七の検察官に対する昭和三七年四月三〇日付、昭和三九年六月一日付、同年八月一四日付各供述調書、大蔵事務官作成の銀行調査書、押収してある総勘定元帳二冊(41、58)、伝票一二綴(33)、法人税申告関係ファイル二綴(39)によると、被告会社は前記未報告円について本件にいたるまで一部脱漏分を除いてすべてフィルム売上として経理処理し、またその保管についてはこれを架空名義の預金にしたり土地を購入するなどして外国会社のために保管することを示す何らの経理処理もしていなかった。

三、未報告円の経済的利得

右一、二において認定した被告会社のフィルム売込方法、代金決済方法、外国会社に対する売上報告状況、フィルム売上に関する経理処理および未報告円の管理状況等を総合すると、被告会社は前記未報告円についてこれを被告会社の収入と考え、かつそのように取扱っていたことが明らかであるから、本件事業年度において少くとも経済的、事実的にはこれを利得していたものと認めるのが相当である。

第三、未報告円が被告会社の所得を構成する収入となるかどうかについて

そこで次に、被告会社が経済的に利得した右未報告円が法人税の対象となる所得を構成するものであるかどうかを検討する。

一、未報告円の法律的帰属

(一) フィルムセールスにおける被告会社の法律的地位について

被告会社がNBC等外国会社との間にいわゆる代理店契約を結んでいたことは前記認定のとおりである。そして被告人の当公判廷における供述、第三回公判調書中証人天野可人の供述部分、押収してある契約書一一綴および一〇袋(22)、日本文契約書二箱(81、82)によると、フィルムの輸入はこれを法律的にみると、フィルムに化体された著作権の使用権(放映権)を外貨を支払って取得することであって、いわゆる貿易外取引(役務に関する契約)にあたるが、本件当時国内において右取引の当事者(輸入者)となりうるものは法律上放送局のみに限られており、しかもこれには例外がなく、リピートおよびローカルセールスの場合においても同様であったのであり、従って被告会社はいかなる場合においても自らフィルムを輸入することはできない立場にあったこと、一方被告会社がフィルムの売込に当って放送局との間にとりかわした契約書には、ファストラン・リピートの別を問わず、またキー局、ローカル局の別を問わず、すべて被告会社が外国会社の代理人である旨の表示がなされていたことが認められる。そして前記認定の代理店契約締結の事実および右認定のフィルム輸入の法律的性質ないし契約書の記載形式等総合すると、被告会社の放送局等に対するフィルムの売込は、ファストランの場合たるとリピートないしローカルセールスの場合たるとを問わず、すべて外国会社の代理人としての資格で行われたものと認めるのが相当である。

なお検察官は、右契約書には被告会社が外国会社の代理人である旨の表示がなされていないと主張するけれども、契約書には、「乙は甲に〇〇〇〇が海外使用に関して一切の権利を有し乙が日本国内に総代理権を有する一六ミリ六〇分カラーシリーズ〇〇本のパッケージを・・・・」等と記載されているのであり、右記載は文字どおり乙たる被告会社が本人たる〇〇〇〇の代理人たることを表示しているものと解せられるので、検察官の右主張は採用できない。

(二) 外国会社の認識について

外国会社が被告会社と前記代理店契約を結ぶにあたり、被告会社に対し、特に代理権の範囲を制限したり或は被告会社のフィルム売込によって生ずる円についてその所有権を放棄してこれを被告会社に与える旨の意思表示をしたとの証拠はない。特に被告人の当公判廷における供述、テレビジョン技術株式会社の登記簿謄本、第一二回公判調書中証人宇佐美元の供述部分、第一五回公判調書中証人宇佐美六郎の供述部分によると、NBCの如きは被告会社のローカルセールス等によって円が生ずるであろうことを予想して右円を管理するため、昭和三三年四月にテレビジョン技術株式会社(TGKK)を設立し、被告会社に対しフィルム売込によって生じた円を右TGKKに入金させてこれを管理していた程であり、またNTA、フリーマソトル等においてはその社員が来日した際被告会社から右円を受取る等していたことが認められるのであって、以上認定の事実に証人服部数政、同ジョセフ・クラインの当公判廷における各供述を合せ考えると、外国会社においては被告会社が取得した円について、これをすべて把握していたかどうかは別として、それが被告会社のフィルムの売込によって生じたものである限り、報告ずみのものであれ未報告のものであれすべて外国会社に帰属するものと考えていたものといわざるを得ない。

もっとも、エリビン・ファラガーの検察官に対する供述調書中には、未報告円について、NBC側としては法律上の権利として請求できる性質のものとは考えていなかった旨の記載があるけれども、右認定のTGKK設立の目的、第一五回公判調書中証人宇佐美六郎の供述部分等に照し、右ファラガーの供述は直ちに借信することはできない。

(三) 日本語版の使用料について

日本語版の製作は被告会社においてこれを行っていたものであることは既に認定のとおりである。ところで検察官は、日本語版の使用収益権はすべて被告会社にあったと主張しているけれども、証人ジョセフ・クラインの当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、外国会社は被告会社と代理店契約を結んだ当初から、日本語版の使用収益権は、ファストランの場合における使用料(製作費に相当する分)を除き、他のすべての場合に外国会社に帰属するものと主張していたこと、これに対し、被告会社も一応これを認めたうえ、その権利を被告会社に譲り受けたいと考え、しばしば外国会社と交渉してきたが、これについては未だ解決をみないままであることが認められるので、リピートないしローカルセールスの場合における日本語版使用料に相当する円はいずれも外国会社に帰属するものと認めるべきである。なお、被告人は、検察官に対し、日本語版の使用収益権について当初は右認定の事実と同趣旨の供述をしながら、昭和三七年五月一五日以降においては、あたかも日本語版の使用収益権がすべて被告会社にあるような供述をしているけれども、被告人の検察官に対する各供述調書を全体として仔細に検討すると、被告人の右供述は、単に被告会社が日本語版の使用収益権を譲り受けたいという希望を表明しているにすぎず、それがすべて被告会社に帰属するという客観的事実を述べたものではないと認められる。(ちなみに、右リピートおよびローカルセールスの場合における日本語版使用料に相当する円についても、本件事業年度当時被告会社がこれを事実上利得していたものであることは既に認定したとおりである。)

(四) 未報告円の法律的帰属について

以上(一)ないし(三)において認定した事実を総合すると、被告会社の放送局に対するフィルムの売込は、ファストラン、リピート、ローカルセールスのいずれの場合においてもすべて外国会社の代理人として行われ、従って放送局から支払われた代金は一部諸経費およびファストランの場合の日本語版使用料(製作費)に相当する分を除き、円、ドルを問わずすべて法律的には本人たる外国会社に帰属するものというべきである。

よって前記未報告円についても法律上は被告会社に帰属せず、すべて外国会社に帰属するものと認めるべきである。

なお、検察官は、放送局側では被告会社を輸入業者と理解し、その支払う円も被告会社に支払うものと考えていたと主張するけれども、仮にそのとおりであったとしても、前記のとおり被告会社はすべての契約において外国会社の代理人たる旨を表示して契約していたのであるから、右事実は支払われた代金が法律上本人たる外国会社に帰属することを妨げる理由にはなり得ない。

二、未報告円の所得性

すでに認定したとおり、前記未報告円は経済的には被告会社の利得と認められるけれども、法律的には外国会社に帰属するものである。

ところで、所得は経済的概念であって、一般にある利得が所得を構成する収入となるかどうかは、その利得が法律上利得者に帰属しているかどうかという法律的観点からではなく、むしろ利得者がその利得の経済的効果を事実上享受しているかどうかという経済的観的から定められるべきものである。しかしながら、法律上利得が認められないにもかかわらず経済的には現に利得していると認められるすべての場合にこれが所得を構成するものとみるのは相当でなく、このような場合にこれが所得を構成するためには、その利得の享受が社会一般人ないし法律上の権利者から通常是認されうるようなものであることが必要であると解すべきである。これを各同種の利得についてみると、強・窃盗・横領などによる利得の場合には、これらは社会的にも当然返還されるべきものと認識されるであろうし、法律上の権利者である被害者も、その利得の原因が明らかとなれば当然返還を要求するであろうから、これらは所得を構成する収入とはいえず、一方と博による利得や利息制限法超過の既収利息の場合には、たとえその利得の原因が明らかとなっても、権利者においてその返還を請求しないのが通常であろうし、社会的にも利得者がそれを返還せざるを得ない程の非難を受けるものでもないから、これらは所得を構成する収入となりうるものと解されるのである。

そこで、これを本件についてみると、右未報告円については、これが法律上外国会社に帰属することが明らかとなれば、社会的にも当然返還さるべきものと認識されるであろうし、また外国会社が未報告円の存在を知れば、当然被告会社に対しその権利を主張するであろうから、結局右未報告円は本件事業年度における被告会社の所得を構成する収入とはなりえないものというべきである。

第四結論

以上の次第で検察官が被告会社のフィルム売上金であると主張する金額は、すべて被告会社の所得を構成する収入とは認められず、これを収入から除くと被告会社は本件事業年度において欠損となることが明らかであるから、結局本件公訴事実については犯罪の証明がないことに帰する。よって刑事訴訟法三三六条により被告会社および被告人清水に対しいずれも無罪の言渡をする。

昭和四七年一月二四日

(裁判官 吉永忠 裁判官 松本昭徳 裁判長裁判官守谷芳は退官のため、署名捺印することができない裁判官 吉永忠)

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